この30年ほどの間、日本人の死亡原因として不動のトップに位置する「がん」。多くの医師や研究者の努力の結果、治療法は進化してきましたが、まだ解明されていない部分が多く、現在でも治療の難しい病気であることには間違いありません。
そんながんの不安とリスクに対して作られたのが「がん保険」です。現在では国内各社からも発売され、がんへの備えとして注目を集めています。ここでは、がんとがん保険についての基礎的な知識についてお話しましょう。
1.がんに備えるための「がん保険」とは
1-1 がんは日本人の死因第1位
2020年の厚生労働省の統計調査によると、がんは日本人の死因の第1位となっています。その数は約37万8,000人。その年に亡くなった方の27.6%、実に4人に1人以上ががんで亡くなっているのです。
がんによる死亡者数はこの70年ほどの間、ほぼ一定の割合で増え続けています。1940年代後半には死因のトップにあった結核が急速に消えていき、その後死因の第1位となった脳血管疾患が1970年頃には減少に転じました。そして1981年にがんがトップに躍り出てからというもの、すでに30年以上も死亡原因の第1位に居座っています。
今やがんは「誰でもかかる病気」であり、多くの人々にとってもっとも身近で、しかも恐ろしい病気となっています。そして、当然ながらそれに対する備えが必要になります。そこで登場したのが「がん保険」です。
1-2 がんだけに的を絞った「がん保険」
医療保険の中でもよく知られた「がん保険」。保険商品の中ではまだ新しい部類に属するものですが、日本人の死亡原因のトップを占めるがんに特化した保険として、各社がさまざまな商品を競うように発売しています。テレビCMなどを使って大々的に広告していますから、ほとんどの方がご存じでしょう。
しかしこの保険がどういうものなのか、どんなときにどのような保障をしてくれるのか、そこまで詳しく知っているという方は多くないかもしれません。まずはがん保険がどういうものなのか、その概略からお話していきましょう。
がん保険は医療保険の一種ですが、その内容はがんに特化したものとなっています。一般の医療保険がほぼすべての疾病を対象としているのに対して、がん保険の場合はその名の通り、がんだけを対象としていることがほとんどです。そのため一般の医療保険よりも保険料は低く、一方でがんに対する手厚い保障が用意されているというのが大きな特徴です。
こうした商品であるために、一般の医療保険に加えてがん保険を別途契約するという使い方をされる方も多いようです。
1-3 がんへの保障を幅広く用意
その保障内容は、各社の商品それぞれにより少しずつ異なりますが、基本的な内容と付加できる特約の種類などは、各社ともほぼ同じです。
基本契約の部分は一般の医療保険と同様、「1日いくら」という形で入院給付金が支払われますが、がん保険に特徴的なのは、基本契約に付随、あるいは特約として上乗せできる、がん関連の手厚い保障です。その例をいくつかご紹介しましょう。
■診断給付金
がんと診断されたときに支払われる給付金です。基本契約に含まれることが多いようですが、特約として用意されているものもあります。また、「初回診断時に限る」というものから「回数無制限」というもの、診断を受けただけでも支給されるものに、入院を伴わない場合には支給されないものなど、商品によって設定はいろいろです。
■手術給付金
所定の手術を受けた場合に、1回につき数十万円が支払われます。一定期間が空いていれば、複数回の手術に対して支払われることが多いのですが、5回も6回もこの給付金を受け取るということは、現実的にはほとんどないでしょう。
■療養給付金
病院での治療が終わり、退院後の自宅療養のために支給される給付金です。これも手術給付金と同様「1回いくら」という形で支払われます。
■先進医療給付金
がんの治療法には標準的な治療のほか、先端技術を用いた「先進医療」と呼ばれるものもあります。具体的には重粒子線治療などが挙げられますが、重粒子線治療の先進医療にかかる技術料(1件あたりの費用)は平均約312万円にまで及びます。
そして、その技術料は公的医療保険の適用外であるため、全額自己負担しなければなりません。そんなときのために用意されているのがこの給付金です。先進医療の技術料の実費を支給してくれます。
*「先進医療」とは、厚生労働大臣が認める医療技術で、医療技術ごとに適応症(対象となる疾患・症状等)および実施する医療機関が限定されています。また、厚生労働大臣が認める医療技術・適応症・実施する医療機関は随時見直されます。
このほか、女性特有の乳がん、子宮がんなどに手厚い保障を用意したものなど、がんに特化したさまざまな保障があります。
一方で、がんの種類によっては支払い対象にならなかったり、入院しても一定期間は入院期間に算入されなかったりと、細かな条件は一様ではありません。どこにどれくらいの保障をつけるかは商品によって違いますし、また支払い条件もそれぞれに異なりますので、がん保険に加入する際には資料を見比べ、内容をきちんと把握したうえで、じっくり吟味することが大切です。
2.がんの基礎知識を知っておこう
2-1 がんは身近な病気
こういう言い方をすると驚かれる方も多いと思いますが、がんは決してまれな病気ではありません。下の図のように、がんにかかるリスクは年齢とともに高くなり、生涯でがんに罹患する確率は、男性65.0%、女性50.2%とも言われています。また、生涯でがんで死亡する確率は、男性26.7%、女性17.8%というデータもあります。
あくまで統計の結果なので、これらの数値は必ずガンになってしまう確率とはいえないかもしれませんが、現状の一端を表したものには間違いないでしょう。実際に、がんとはそれほどに身近な病気であって、決して「宝くじのように、めったに当たらないものに当たってしまった」というものではありません。
がんとは、身近な病気であり恐ろしい病気であることに違いありません。知らず知らずのうちに体をむしばみ、健康を奪っていき、ついには人を死まで導いていきます。
治療法は確立されてはいるものの、その多くはあくまでも対症療法であって、根治させることは難しくなっています。私たちは「がん」と聞いただけで、何か恐ろしい呪いをかけられたような気分になってしまうものです。
確かにがんは難しい病気ではありますが、決して不治の病というわけでもありません。まずは「がん」というものについて、きちんと理解しておくことが必要でしょう。
2-2 がん細胞は「暴走する細胞」
がんは「悪性新生物」という名で呼ばれますが、もとを正せば私たちの体をつくる正常な細胞そのものです。それが何かのきっかけで暴走してしまった結果が「がん細胞」なのです。
私たちの体の細胞は、常に分裂を繰り返し、新しいものへと置き換わっています。たとえば肌の細胞を例にとると、肌の奥深いところで新しい肌細胞が作られ、それが肌の表面へと押し上げられていきます。するとそれまでの古い肌細胞は内側から押し出されるようにして外へ外へとせり出していき、肌表面に達します。さらに新しい肌細胞によって押し上げられると、ついには肌表面からはがれ落ちていきます。
このように、私たちの全身の細胞は、常に代謝を繰り返し、新しいものへと置き換わっているのですが、そのスピードには一定の周期があります。先ほどの肌細胞であれば、新しい細胞が生まれ、それが肌表面にまでたどりつき、寿命を迎えてはがれ落ちるまでが、おおよそ1か月。
胃や腸などの内壁はもっとサイクルが短く、5日前後で新しい細胞に入れ替わるといわれています。
このように、私たちの体の細胞は、適切なサイクルによって入れ替えられ、代謝を繰り返しています。そのサイクルをまったく無視して暴走するのが、がん細胞なのです。
2-3 やっかいながんの特性、転移と再発
がんはひとたび発生すると、もともとプログラムされた分裂サイクルを無視して、無秩序で暴走的な細胞分裂を繰り返します。そして「がん病巣」を形成して、その勢いは周囲の細胞にもどんどん広がっていきます。この異常な増殖能力は、がん細胞に特徴的なものです。
そしてさらに、がんを難しい病気にしているのが「転移」と「再発」という、がんの特徴です。
がん細胞は、何かの拍子に病巣からちぎれ、その切れ端が血液やリンパ液に乗って体の別の部分に移動することがあります。そしてたどりついた先に落ち着くと、そこでも暴走的な増殖を始め、新たにがん病巣を作っていくのです。これが転移の仕組みで、この動き自体を止めることはできません。
また手術などの治療によって病巣を取り除いても、わずかに残ったがん細胞が活動を続け、やがて再びがん病巣を作り上げることもあります。これが再発です。このような特性があるために、がんは「完治」という言葉を使いにくい病気です。一度は回復したように見えても、いつまた転移や再発を起こすかわからず、常に警戒しておかねばならない病気なのです。
2-4 がんの治療の三本柱
がんの治療は現在のところ、手術・化学療法(抗がん剤)・放射線治療が主流で、これを「がん治療の三本柱」と呼んでいます。それぞれに一長一短があり、患者さん自身の体調などによって選択されますが、患者さんにとってはいずれも負荷の大きいものです。
がんは非常に強力な増殖能力を持っていますから、手術で取り去るにしても、病巣周辺の組織を大きく切り取り、たとえわずかでもがん細胞を残さないようにしなくてはなりません。そのため患者さんの肉体的ダメージは大きくなりますし、回復にも時間がかかります。また、化学療法や放射線治療では副作用が出やすく、あまりの辛さに治療を断念したという話もよく聞かれます。がんの治療はそれほどに、肉体的な負担も大きくなりやすいです。
これら三本柱の他にも、がんの治療法は存在します。「先進医療」と呼ばれているものがそれで、「重粒子線治療」や「陽子線治療」などが行われています。ただし、これらの治療は公的保険制度の適用外であるため保険の適用はされず、そのため治療費が全額自己負担となります。
その額は高額になる場合もあるため、誰もが安心して受けられるというものではありません。
このように、がんは治療費が高額に達することもありますし、転移や再発などで治療が長期化することも考えられます。そして、先ほど少し触れたように、がんは誰でも罹患する可能性がある身近な病気(“2-1がんは身近な病気”の図表参照)です。
次章以降で詳しくお伝えしますが、そのような「高リスクで身近ながん」に対する備えとして、がん保険は有効な方法の1つです。その意味では、数ある医療保険のなかでも、特にがん保険は優先的に検討すべきだと言えるでしょう。
3.がんへの備えをどうするか
3-1 治療期間はどれくらいなのか
がん治療では、とかく治療期間が長くなりがちです。
近年では新たな手術法が開発されるなどして、以前に比べれば短期の入院で済むケースも増えてきました。それでも、おおよそ2週間から3週間程度の入院は必要です。
それだけ入院すれば当然ながら医療費もかさみます。診療費や入院基礎料金、手術代など、直接的な治療費については「高額療養費」を活用することで、出費を抑えることができますが、健康保険が適用されない費用…たとえば入院中の衣料や差額ベッド代などは、自己負担しなくてはなりません。1日あたりの額はさほど大きくなくても、それが10日、20日と長期化すれば、思わぬ額に達してしまいます。
さらに負担はまだあります。
入院している間はもちろん、退院してからも体調が元通りに回復するまでは、仕事への復帰はできません。つまり、それまではお金を得ることができない場合もあり、収入の道が断たれることにもなってしまいます。福利厚生のしっかりした会社にお勤めであれば、いくらか安心もできるでしょう。たとえ減額されても給与が支給されたり、各種の手当てや見舞金があれば、当面、お金の心配はいらないかもしれません。
「うちの会社はそこまで面倒見は良くないよ」という方でも、健康保険の疾病手当を活用することができます。それだけでは充分とはいえないかもしれませんが、心強い助けになることは間違いありません。
ですが自営業の方、特にご自身の身一つで仕事をされている方は、自分自身が動けないとなると、そのとたんに収入が途絶えてしまいます。それが数日であればまだしも、2週間、3週間も続くとなると、医療費もさることながら生活の心配もしなくてはなりません。
がんという病気にはさまざまな側面での難しさがあり、治療も大変困難なものです。そして完全に回復するまでに長期間を必要とするということも、がんをさらに恐ろしい病気にしている大きな要因なのです。
3-2 がんの治療は早期発見が重要
がんは厄介な性質を持ち、また誰にとっても罹患の危険がある病気です。となると、それに対する備えもしっかり用意しておく必要があります。
がんへの備えの第一は、まず予防と早期発見に努めること。がんはまだまだ解明されていないことが非常に多く、その原因についてもさまざまなものが挙げられています。
喫煙や過度の飲酒、ストレスなどといった生活習慣や、排気ガスや紫外線などの環境によるものなど、とても多くの事柄について「がんを誘発する」「発がん性がある」などといわれています。完全に解明されてはいないものの、これらの「がんの原因」となるものを遠ざけることは、今すぐにもできるがん予防の第一歩でしょう。
また、がん細胞は爆発的な増殖能力によって、ごく短期間のうちに病巣を広げていきます。特に代謝の活発な若い方ほどその傾向は強く、がんの進行も早いもの。ですから定期的な検診を受けるなどして、早期発見に努めることが肝心です。
がんの治療については現在のところ、先にもお話した「三大療法」が選択されますが、いずれの治療を行うにしても、大切なのは早期発見・早期治療です。
早い段階でがんを見つけ、適した治療を行えば、それだけ治癒の可能性は高まります。「自分はタバコも酒もやらないし、大丈夫だろう」などと安心していてはいけません。どんなに健康に気をつけていても、それでもがんになる方は数多くいらっしゃいます。常に警戒をおこたらず、体の状態をチェックする習慣をつけておきましょう。
3-3 がん保険の誕生と進化
がんを防ぎ、早期発見に努めるという健康面での備えもさることながら、もしもがんになっても慌てずにすむよう、生活面での備えもしっかり用意しておきたいものです。ことに家庭をお持ちの方にとって、それは欠かすことのできないことでしょう。
こんなときに強力な味方となってくれるのが、各社から発売されているがん保険です。
がん保険が日本に登場したのは、1970年代半ばのことでした。当時のがんは今以上に恐ろしい病気と認識されていて、「がんの告知はすなわち死の宣告」というほどに、難しい病気とされていたのです。転移や再発という特性のために完全に治すことが難しく、その原因や発生するまでのプロセスなど、判らないことばかりの病気でもありました。
当時の日本では脳卒中のような「脳血管疾患」による死亡者数が多かったのですが、それが減少傾向になる一方で、がんによる死亡者は一定の割合で増え続けていました。医療の現場では、この難しい病気を克服するべく多くの医師や研究者が努力を続けてきましたし、その結果として新たな手術法や治療法、より効果的な医薬品の開発につながっていったのは間違いありません。
そして保険の分野でも、がんの宣告を受けたときの備えとして、がん保険が開発され、発売されたのです。ただ、当時のがん保険は入院給付金と死亡保険金くらいしか用意されておらず、現在のがん保険とはまったく趣の違うものだったようです。
その後40年ほどを過ぎて、がん保険は時代の変化に合わせ、より充実した保障を実現できるよう進化してきました。医療保険の基本である入院給付金に加え、手術給付金や先進医療給付金など、がん患者さんとその家族への手厚いサポートが用意されています。
今後、さらに医療技術が進み、画期的ながん治療法が開発されたならば、そうした治療への対応もなされていくことでしょう。
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まとめ:その時の不安を少しでも軽くするために
ここでは、
・がんは身近で、誰でもかかる可能性があること
・がんに的を絞り、がん治療への保障に特化した「がん保険」が登場してきたこと
・がんには転移と再発という特徴があり、治療後も警戒が必要であること
・がんには「三本柱」の治療のほか、保険適用外の治療法も数多くあること
・治療期間が長くなりやすいがんには、充分な備えが必要であること
などについてお話してきました。
がんは、その原因も発生のプロセスも、まだまだ解明しつくされていません。「喫煙は肺がんのリスクを高める」ということは常識として知られていても、愛煙家の全員ががんを患うわけではありませんし、タバコを吸わないのに肺がんになった、というケースも実際にあります。
こうした危険への備えが、定期的な検査とがん保険です。がんは早期発見・早期治療が鉄則です。定期的に検診を受け、自分自身の体の状態をきちんと知っておくことが、トラブルを事前に避けるポイントです。早い段階で異常が見つかれば、それだけ早く治療ができ、重症になる前に処置することができるのです。
そしてもしものときの備えとして、がん保険にしっかり加入しておくことです。たとえ入院・手術という事態になっても、せめて費用の心配をせずに済めば、それだけ不安も軽くなります。そうすれば安心して治療を受け、ゆっくりと回復を目指すこともできるのです。
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