高齢化社会と言われて久しい日本ですが、いわゆる“団塊の世代”が次々と70歳以上になり、今もその勢いには歯止めがかかりません。2025年には総人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合は3割を超えるという予想まで立てられています。それにともない大きな課題の1つとなっているのが「介護」の問題です。
元気なお年寄りがご家族にいらっしゃる方は、今までは介護を意識する機会はあまりなかったかも知れません。ですが、皆さんのご両親も配偶者も確実に年を重ねています。徐々に足腰は弱くなり、病気やケガの回復力も衰えていき、介護の必要性は突然やってきます。
そんな介護に対応する為に重要なのが介護保険です。やはり事前に介護保険の正しい知識を身につけておけば、もしもの時にも焦らずに済むかもしれません。
しかしながら一方で、「たしかに介護保険の知識は重要なんだろうけど、なんだか難しくて良くわからない!」という方も多いのではないでしょうか?
そこで、ここでは公的介護保険制度から民間の介護保険まで、全般的な介護保険の知識について分かりやすく解説していきます。何事も最初はおおよその全体像を把握することが大切です。先ずは全体的なイメージを掴みましょう。
1.公的介護保険制度とは何か?
公的保険介護保険制度とは、「社会全体で高齢者の介護を支えあう」という理念のもとに2000年に創設された制度です。その背景には「介護を必要とする高齢者の増加」や、「核家族化による、高齢者を支えてきた家族の形の変化」といった、従来のように家族の手だけで介護をおこなうことが難しくなってきた社会の状況があります。
40歳以上の方は公的介護保険制度への加入を義務づけられていますが、そのおかげで高齢者の方が寝たきりになったり、認知症にかかったりして介護が必要になったとき、原則かかった費用のうち1割~3割の自己負担のみで介護サービスを受けることができるようになりました。
1-1 誰がどんな条件で保障を受けられるのか?
公的介護保険制度の被保険者(=保障を受けられる人)は年齢に応じて、65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳~64歳の「第2号被保険者」に分かれています。その区分によって、保障を受けられる受給要件も異なっているのです。
65歳以上の方(第1号被保険者)は、老化や病気・ケガなどで介護が必要だと認められた場合、すべての方が保障を受けられます。
対して、40歳~64歳の方(第2号被保険者)は、老化を原因とする「特定疾病」により介護が必要だと認められた場合のみ保障を受けられます。たとえば、第2号保険者の方が交通事故により介護が必要になったとしても、公的介護保険の保障を受けることはできません。
1-2 保険料の金額はどうなっているのか?
公的介護保険制度は、主に税金と被保険者が支払う毎月の保険料を財源として運営されています。介護保険料については65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳から64歳の方(第2号被保険者)で算定の方法が異なっています。
第1号被保険者の介護保険料は、介護サービスの利用状況や、被保険者の所得などに応じて市町村ごとに決められています。厚生労働省によれば、65歳以上の方(第1号被保険者)の介護保険料の全国平均は月額6,014円です。
それに対しては第2号被保険者の介護保険料については、公的介護保険の給付費のうち、第2号保険者の方が負担する割合を厚生労働省が算定し、それに基づいて1人当たりの保険料を決めていきます。厚生労働省によると、40歳から64歳の方(第2号被保険者)の介護保険料の全国平均は月額5,532円とされています。
1-3 公的介護保険を利用するための手続きはどうしたら良い?
公的介護保険制度を利用するためには、「要支援・要介護認定」を受ける必要があります。
要支援・要介護認定とは、介護が必要な状態であると認められることです。身体の状態の程度に応じて要支援1~2・要介護1~5の7段階に分かれており、それに合わせてかかった費用のうち1割または2割(現役並みの所得のある方は3割)で利用できる介護サービスの上限額が設定されます。
要支援・要介護認定を受けるための具体的な手続きの流れは次のようになります。
○要支援・要介護認定を受けるための流れ
1.市区町村の窓口で要支援・要介護認定の申請(その手続きは本人だけではなく、家族でもOK)
2.市区町村から調査員が派遣され、自宅で利用希望者の身体状態のチェック等を行う。また、それと並行して主治医が医学的見地に基づいた意見書を作成する(主治医がいないときには役所の指定医が作成)。
3.コンピューターによる1次審査。2次審査では1次審査の結果や主治医の意見書をもとに有識者が審査。合わせて30日以内に結果が通知される。
4.審査の結果、「要支援・要介護状態」(介護が必要だとされる状態)に認定されれば、7段階の要介護度に応じて公的介護保険からサービスを受けられるようになる。
1-4 要支援・要介護ってどういう状態??
公的介護保険を利用するには要支援・要介護認定が必要になりますが、では具体的に要支援・要介護とはどのような状態を指すのでしょうか。
主に要支援・要介護は身体の状態の程度によって、要支援1~2・要介護1~5まで、7段階に分かれています。後述しますが、その区分に応じて、かかった費用のうち1割もしくは2割(現役並みの所得のある方は3割)の自己負担で受けられる介護サービスの上限額が変わってきます。
○要支援・要介護の区分
ほぼ自分一人で日常生活を送ることができるが、要介護状態の予防として多少の支援を要する状態。
入浴、排せつ、衣類の着脱などは、ほとんど自力でおこなえる状態。問題行動や理解低下は特に見られない。
入浴、排せつ、衣類の着脱などは、ほとんど自力でおこなえる状態。問題行動や理解の低下が見られることがある。
歩行や立ち上がりなどの動作に何からの支えを必要とする。排せつや食事に一部介助を要する状態。問題行動や理解低下が見られることがある。
歩行や立ち上がることが自力ではできない。入浴、排せつ、衣類の着脱に全面的な介助を要する状態。いくつかの問題行動および、全般的な理解の低下が見られる。
日常生活能力の低下が見られ、入浴、排せつ、衣類の着脱を含む多くの行動に全面的な介助を要する状態。多くの問題行動および、全般的な理解の低下が見られる。
生活全般に及ぶまで介助を要し、介護なしでは日常生活を送ることができない。食事・排泄・衣類の着脱を含む多くの行動に全面的な介助を必要とする。意思の疎通が困難な寝たきり状態。
1-5 公的介護保険制度で利用できる介護サービスにはどんなものがあるの?
公的介護保険制度のサービスは大きく分けて、要介護1~5に認定された方が利用できる「介護給付」と、要支援1~2に認定された方が利用できる「予防給付」があります。介護給付が介護のサービスであるのに対して、予防給付は介護が必要になる状態を予防するためのサービスであると言えます
また、いずれのサービスも、「訪問」「通所」「短期滞在」「居住・入所」といった、サービスを受ける形態に応じて4つに分けることができます。
●訪問系サービス(家に訪問してもらって受けるサービス)
訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーションなど
●通所系サービス(日帰りで施設等に通って受けるサービス)
通所介護、通所リハビリテーションなど
●短期滞在系サービス(短いあいだ施設に宿泊して受けるサービス)
短期入所生活介護、短期入所療養介護など
●居住・入所系サービス(施設に居住もしくは入所して受けるサービス)
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設など
1-6 介護サービスの自己負担は1割から3割!でも上限があるので注意!
公的介護保険を利用すれば、1割または2割(現役並みの所得のある方は3割)の自己負担のみで介護サービスを利用することができます。残りの7割から9割は公的介護保険からサービス提供者へ支払われます。
しかしながら、要支援・要介護認定を受けたからと言って、無制限にその待遇で介護サービスを受けられるわけではありません。
それぞれの要介護度に応じた月ごとの上限額が設定されており、その範囲内で利用した介護サービス費用は1割から3割の負担で良いことになっていますが、その上限額を超過して利用した介護サービスについては全額自己負担となるのです。
具体的に要介護度別の上限額は次のようになっています。
1-7 自己負担が大きくなった時の「軽減措置」!
●高額介護サービス費
介護サービスを利用し、1割~3割の自己負担額が月ごとの上限額を超えた場合、その超過分は「高額介護サービス」として払い戻しを受けることができます。その上限額は収入などによっても変わります。
同一世帯で複数の方が介護サービスを利用している場合、たとえ個人では上限額に達しなかったとしても、それぞれの利用費の合計が世帯としての自己負担の上限額を超えたとしたら、その超過金額を按分した額を「高額介護サービス費」としてそれぞれが受け取ることができます。
●高額介護合算療養費制度
同一世帯で公的医療保険や公的介護保険の給付を受けてもなお、1年間の介護費と医療費の自己負担額が高額に及んだ際には「高額介護合算療養費制度」が用意されています。
もしも毎年8月から翌年7月にかけての1年間、同じ世帯内の介護費と医療費の合計が上限額を超えた場合、その超過分が払い戻されます。この上限額については、所得や加入している公的医療保険によって変わってきます。
2.民間の介護保険
介護に備える方法としては、公的介護保険制度だけではなく、民間の介護保険があります。
介護にかかる費用のうち、必ずしもすべてを公的介護保険のみでまかなえる訳ではありません。その公的介護保険だけでは補いきれない部分をカバーするのが民間の介護保険の役割です。
ここでは民間の介護保険がどのようなものなのかを見ていきましょう。
2-1 そもそも民間の介護保険は必要?
民間の介護保険といっても、そもそも民間の介護保険が本当に必要なのか疑問に持たれている方もいらっしゃるかもしれません。確かに民間保険としては、医療保険や死亡保険などと比べると、少し優先順位が低いように感じられます。
ですが、民間の介護保険は、もしも介護状態になったときに、ご自身がしっかりとした介護サービスを受けるためにも、あるいはご家族や周りの方への負担を和らげるためにも、とても重要な保険の1つだと言えます。
民間の介護保険の必要性を疑問視する考えには大きく分けて2つあるように思います。
・そもそも介護を必要とする状態になる確率が低いのでは?
・介護が必要になったとしても公的介護保険で十分に対応できるのでは?
それぞれ簡単に検証してみましょう。
2-1-1 そもそも介護が必要になる確率が低い?
介護と耳にしても、あまり身近なものに感じられないかもしれません。
ですが、厚生労働省の調査によれば、65歳以上の方は約5.4人に1人、75歳以上の方は約3.1人に1人が介護を必要とする状態(要支援・要介護認定を受けている)とされています。それに加えて、介護が必要な状態となる原因として「転倒・骨折」といった、必ずしも年齢や体調とは関係のないものも10%以上を占めています。
さらに要支援・要介護と認定された人数は、2000年から2020年にかけて、約3.1倍に膨れ上がっているのです。将来的に介護をする側/される側のどちらになるかは分かりませんが、いずれにしても私たちにとって介護は他人事ではないと言えそうです。
2-1-2 介護が必要になっても公的介護保険制度で十分?
確かに公的介護保険制度は優れた制度ではありますが、もしも介護が必要になったとしたら、本当にそれだけで十分なのでしょうか?
前章で述べたように、要支援・要介護認定を受ければ、その程度に応じて設定された上限額の範囲内で介護サービスを1割から3割の自己負担で受けることができます。さらに、この自己負担額が定められた上限額を超えた場合、申請をすればその超過分は「高額介護サービス費」として払い戻しを受けられる軽減措置も用意されています。
ですが、その一方で「食費・日常生活費」「住宅改修費・福祉用具購入費」「施設へ通う交通費」「介護施設での食費・居住費」などについては、すべてを公的介護保険制度でカバーすることはできません。
では、実際に負担する平均的な介護費用の目安はどの程度の金額なのでしょうか?
生命保険文化センターは、実際に介護を経験し公的介護保険も利用した対象者に向けて平均介護費用のアンケートを行っています。それによれば、月平均の介護費用は約8.3万円となっています。またそのアンケートでは、介護経験者が介護に要した期間についても問われています。その結果を見ると、平均的な介護期間は61.1カ月(約5年1カ月)と長期間に及んでいます。
単純計算ですが、介護にかかる平均的な費用の目安としては次のように考えることができます。
●介護にかかる平均費用
月8.3万円×61.1カ月=約507万円
予想以上に大きい金額に驚かれた方も少なくないのではないでしょうか? もちろん中には「月8万円であれば大丈夫!」という方もいらっしゃるかもしれません。
とはいえ、介護は一時的なものではなく、長い時間がかかります。もしもその間、ほかに費用が大きくかかること(独立前の家族の学費、他の家族の入院・手術など)が起こったらどうでしょうか? あるいは、介護の必要に迫られることによって、収入を支えていた家族が今までのように働くことができなくなる場合も考えられます。
それぞれの家庭の生活状況によっても異なりますが、介護にかかる費用に備える方法の1つとして民間の介護保険は十分に検討に値すると言えそうです。
2-2 民間の介護保険の保障内容はどんなもの?
ここから先は、民間の介護保険がどのような保障内容なのかを詳しく見ていきましょう。
2-2-1 民間の介護保険、2つのタイプ
民間の介護保険の保障は、大きく分けて2つのタイプに分けることができます。介護状態になった時にのみ保障を受けることができる「掛け捨てタイプ」と、介護状態になったときだけでなく満期時や解約時にも保険金を受け取れる「積み立てタイプ」が一般的です。
掛け捨てタイプは、保険金の支給条件が介護状態になった場合のみなので、比較的保険料は割安です。一方で積み立てタイプは、掛け捨てタイプと比べて月々の保険料の負担は大きくなりますが、死亡保障も合わせ持っているので、被保険者本人もしくはその家族が何らかの形で保険金を手にすることができます。
一概にどちらが良いとは言えませんが、基本的な考え方としては、すでに別に死亡保険を準備しているなど、介護保険と死亡保険を分けて用意する場合には掛け捨てタイプが適しています。
その逆に、介護保険と死亡保険を同時に用意したい、あるいは介護に備えつつ死亡保障の上乗せをしたいといった方は、積み立てタイプがマッチしていると言えるでしょう。
2-2-2 保険金の受け取り方は?
民間の介護保険の場合、加入時に保険金を受け取る方法が大きく3つに分かれています。「年金型」と「一時金型」、そしてその2つを合わせた「年金+一時金型」です。
受給要件に該当した場合、年金型は1年に一度、決まった時期に保険金を受け取れます。一時金型と比べて、受け取れる期間は長いのですが、1回の保険金額は小さくなるのが一般的です。
それに対して一時金型は、受給要件に該当したその時点で一括で保険金が支払われます。年金型と比べて、受け取れるのは1回のみですが、そのぶん保険金額は大きくなります。
いわば細く長く保険金を受け取るのが年金型だとしたら、太く短く保険金を受け取るのが一時金型だと言えます。そして、その両者の中間に位置するのが年金+一時金型です。
介護費用のうち特に大きいと言われているのが、介護費用自宅の増改築や介護用品の購入、もしくは介護施設への入居費といった初期費用です。初期費用に不安がある方は一時金型、それに対して何かしらの準備ができている方(家の増改築が必要ない、介護用具は揃っているなど)は年金型が、それぞれフィットしていると言えるでしょう。
2-2-3 保険金を受け取れる条件は?
どんな保険でも保険金を受け取れる条件が定められています。たとえば医療保険であれば入院・手術をしたとき、死亡保険であれば万が一のことあったときなどに保険金を受け取れます。
民間の介護保険では、保険金を受け取れる条件は大きく分けて2つのパターンがあります。
公的介護保険制度の要支援・要介護のいずれかの状態に該当した場合に保険金を受け取れる「公的保険連動型」と、公的介護保険とは関係なくそれぞれの保険会社が定める基準に該当した場合に保険金を受け取れる「独自基準型」です。
各保険会社ごとに様々ですが、原則的に受取条件のハードルが高ければ月々の保険金は安くなり、その逆にハードルが低ければ月々の保険料は高くなります。いずれにしても民間の介護保険の受取条件は、各保険会社によって大きく異なるので、検討する際には必ずチェックしておきたいポイントと言えそうです。
まとめ:公的介護保険制度をベースに、足りない部分を民間の介護保険でカバー!
いかがでしたか? ここでは、
・65歳以上の方は介護状態になったとしても、公的介護保険制度を利用すれば、かかった介護費用を全額負担するわけではない
・ただし、公的介護保険制度で介護費用のすべてをカバーできるわけではない
・公的介護保険制度だけではカバーし切れない部分を補うのが民間の介護保険
・民間の介護保険の保障内容は多種多様なので、目的に合わせて選ぶ
といった点について見てきました。これで公的介護保険制度から民間の介護保険まで、大まかな全体像は掴めたのではないかと思います。
ですが、ここでお話したことは介護保険についてのごく一部に過ぎません。各ご家庭の生活状況によって、介護に対する備え方や必要な知識は大きく変わってきます。
「そこまで自分で考えるのはちょっと無理だな……」と思われた方は、一度プロの意見を参考にしてみるのも1つの手かもしれません。私たち保険見直し本舗は、そのお手伝いをいたします。保険見直し本舗には民間の介護保険はもちろん、公的介護保険についても詳しいコンサルティングアドバイザーが多く在籍しています。
まずはお気軽に皆さんの介護保険についての疑問やお悩みをお寄せください。心よりお待ちしております。