「人生100年時代」「老後資金は2,000万円不足する」「早くから老後の準備をしておくことが大切」など、老後のお金に関するテーマは、テレビでも新聞でも見かけない日がないぐらい、よく登場する話題です。ただそれだけ情報があふれているにもかかわらず、「考えれば考えるほど、漠然とした不安が消えない……」という人も多いのではないでしょうか。
老後の暮らしを考えた時、主な収入源として真っ先に思い浮かぶのは「年金」だと思います。けれど一口に「年金」と言っても、実は1種類ではありません。国の制度である「公的年金」、企業が従業員への福利厚生制度として設けている「企業年金」、生命保険会社などが提供する「年金保険」の3種類があり、どの年金制度を利用しているかによって、「いつから」「どれぐらい」の年金がもらえるのかに大きな違いが出てきてしまいます。
一体老後にはどれぐらいのお金がかかりそうなのか、そのうち公的年金でまかなえるのはどれぐらいなのかを知ることは、老後のお金について考える第一歩。不足分が分かり、それを補う手段が分かれば、漠然とした不安の解消にも役立ちます。
そこで、ここでは老後に必要となる資産の目安から「公的年金制度」でカバーできることできないことについてまで、また「公的年金制度」の不足分を補う方法としての「年金保険」の仕組みやその特徴、購入の際の注意点などもお話していきたいと思います。
1. 公的年金だけでは不十分? 年金保険の必要性とは
1-1 老後資産の目安は月約26万円
老後の暮らしのためには一体どれぐらいのお金が必要になるのでしょうか。詳しくは老後の生活費について説明したページがありますから、そちらをお読みいただきたいのですが、ざっと平均的な数字を知るには、総務省統計局が抽選で選ばれた全国約9000世帯を対象に行っている家計調査が役立ちます。
「家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)」に掲載されている高齢夫婦無職世帯の家計収支のデータによると、世帯の毎月の実収入は25万6660円。そのうち年金などの社会保障給付の割合が85.7%を占め、21万9976円です。
一方支出は、食料や住居、保健医療費などの消費支出が22万4390円、税金や借入金の利子などの非消費支出が3万1160円で、合わせると25万5550円。毎月1111円の黒字となっています。
この調査結果ですが、ここ数年は3~4万円の赤字でしたが、2020年に限っては新型コロナウイルス感染症対策としての給付金などで収入が増えたことに加えて、経済活動の縮小により消費支出も減少したことが影響して黒字になったものと考えられます。
一方、厚生労働省の「令和2年簡易生命表の概況」によると、2020年時点で日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性87.74歳です。60~65歳で退職するとして老後を約20年間として考えるなら、その間の支出額は月25.6万円×20年間で6144万円。およそ、これだけのお金を年金や貯蓄でまかなっていく必要があるというわけです。
1-2 公的年金はいくらもらえる?
老後に必要なお金の目安が分かったところで、今度は公的年金ではいくらもらえるのかに目を向けてみたいと思います。
公的年金制度の詳細は別に説明ページがありますから、そちらをお読みいただければと思いますが、簡単にまとめると、国民全員が「国民年金」に加入し、サラリーマンや公務員などはそれに加えて「厚生年金」にも加入するという、2階建ての構造になっています。ちなみに、サラリーマンの配偶者は「国民年金」に加入します。
厚生労働省が毎年度発行する「厚生年金保険・国民年金事業の概況」の令和2年度版によると、厚生年金保険受給者の老齢年金平均月額は約14万6000円、国民年金受給者(新規裁定者)では約5万4000円です。一例として、夫が会社員、妻が専業主婦だった場合、老後の世帯の1カ月の収入は14万6000円+5万4000円で20万円となる計算です。
先ほど紹介した通り1カ月の支出額の平均は約25万6000円ですから、毎月の生活費の不足は約5万6000円になってしまいます。
繰り返しになりますが、前節での家計調査のデータは新型コロナウイルス感染症対策などによる特殊要因が影響しており、コロナ前の状況に戻れば以前のように毎月3~4万円が不足する結果になると考えられますので、定常的にはこちらの数字が実態に近いと言えるでしょう。したがって、公的年金だけでは家計はかなり厳しい状況になると想定しておいたほうが良さそうです。
1-3 企業年金には頼れるか?
公的年金だけでは老後の生活費用には足りないことが分かりました。では、その分は「年金」の2番目、「企業年金」で補うというのはどうでしょうか?
企業年金とは一言で言うと、企業が社員に対して年金を支給する仕組みです。将来の給付額を先に決めてそれに応じた掛け金を積み立てていく「確定給付企業年金」や、掛け金額を先に決めて積み立てた資産を運用、将来の給付額は運用実績に応じたものになる「確定拠出年金」など数種類のタイプがあります。
将来受け取ることのできる年金を増やすのに有効な手段ではあるのですが、厚生労働省が2020年9月に開催した第15回社会保障審議会企業年金・個人年金部会の参考資料として制作した「企業年金・個人年金制度の現状等について」によると、2008年から2018年の10年間で従業員299人以下の中小企業における企業年金を実施する企業の割合は15%以上減少しており、中小企業の企業年金実施率は低下傾向にあります。また、たとえ所得が同じぐらいでも、年金水準に差が生じやすい制度であるとも指摘されています。
1-4 年金保険を考えてみよう
ではこのような「企業年金」に対して、「年金」の3番目「年金保険」はどうでしょうか。
年金保険は一般の生命保険会社の商品の1つで、企業に関係なく個人で加入するものです。毎月一定額を積み立てていき、老後にその額に応じて年金を受け取るというのが基本の仕組みで、受け取る期間や金額の決め方によりさまざまなタイプがあります。
公益社団法人生命文化センターが3年毎に行っている「生命保険に関する実態調査」の2021年度版によると、個人年金保険加入世帯が1年間に受け取っている年額の平均は97.1万円。月計算にすると約8万1000円で、毎月の生活費の不足を補って少し余るぐらいの計算になります。
またグラフからも分かる通り、世帯ごとに受取金額にばらつきがありますが、これは年金保険がそれぞれの個人の必要に合わせて毎月の積立額や受取額、受け取り開始の年齢、受け取る期間などを自由に設計するものだからです。
例えば、株式の配当による収入が年間36万円(月3万円)を見込めるのなら、毎月の生活費の不足分の目安は、5万6000円-3万円で2万6000円。年間にして約30万円分だけを年金保険で補うこともできますし、60歳で退職してから65歳で公的年金を受給するまでのつなぎに、この5年間だけ月々一定額の年金を受け取れるように設計することもできます。
次章では、この年金保険についてもう少し詳しくお話したいと思います。
2. 年金保険とはどんな保険か?
2-1 年金保険のシステムはこうなっている
先ほどバラバラと登場した年金保険の特徴について、まとめるとおよそ次のようになります。
・生命保険会社などが販売する保険商品の一種
・毎月分割または一括で一定額の掛け金を支払い、設定した年齢になったら毎月一定額を「年金」として受け取るのが基本の仕組み
・勤め先などの企業とは関係なく「個人年金」を作るためのもの。個人で加入し、その掛け金に応じて個人で年金を受け取ることができる
・積み立てを始める時、毎月の掛け金の額、年金の受け取り方などは加入者が自由に選ぶことができる。将来受け取りたい受給額に合わせて毎月の掛け金を設定することができるので、公的年金の不足を補うように設計することも可能
2-2 公的年金制度との違いは? ~設計自由な個人年金~
名前の通り「公の」年金である公的年金制度に対し、年金保険は個人で作る年金です。
日本は「国民皆年金制度」を取っているので、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人は年金制度に加入することになっています。国の制度なので、たとえ「自分の老後資産は自分で用意するから年金はいらない」と言ったとしても、基本的に認められません。
また毎月の保険料の支払額・年金の受取額も自分では決められず、国民年金の場合は一定額、厚生年金の場合は収入に応じて決められる一定額を支払い、将来はその額に応じた年金を受け取ることになります。
対して、年金保険は個人が選んで加入するものなので、加入する・しないを含め完全に個人の自由です。またさまざまなタイプがあり、契約開始の年齢、毎月の掛け金、年金を受給する期間などを、自分の必要に応じて自由に選べることが公的年金制度との一番の違いです。公的年金では足りない所を補うように使うことができるのが特徴です。
2-3 どんなタイプのものがあるのか?
年金保険にはさまざまなタイプがありますが、大きくは「年金の受取期間が確定しているタイプ」と「一生年金を受け取れるタイプ」の2つに分かれます。それぞれのメリット・デメリットに触れながら、もう少し詳しく紹介します。
●年金の受取期間が確定しているタイプ
「確定年金」
5年、10年、15年など、契約時に予め定めた一定期間のみ、被保険者の生死に関係なく年金が受け取れるものです(年金受取期間中に被保険者が亡くなった場合は遺族が受け取ります)。掛け捨てになることはなく、年金の受取総額が予め分かるので計画が立てやすいというメリットがある一方、期間が終われば年金を受け取れなくなってしまうというデメリットがあります。
「有期年金」
基本は確定年金と同じですが、被保険者が亡くなるとそれ以降は年金が支給されません。掛け捨てになってしまうリスクがありますが、その分掛金は安くなっています。
●一生年金を受け取れるタイプ
「終身年金」
公的年金と同じように、被保険者が生きている限り一生年金を受け取れるものです。亡くなってしまうとそれ以降は受け取れませんが、多くの場合10年などの保障期間が設定されており、被保険者が亡くなってもその間は遺族に年金が支払われるようになっています。ただし亡くなる時期によっては、掛け金より受取額の方が少なくなるリスクがあります。受取期間が確定しているタイプに比べ掛け金は高めです。
3. 貯蓄や投資の手段としても使える年金保険
3-1 年金保険に向いている人とは?
個人で自由にカスタマイズできる年金保険は、さまざまな場面でおすすめできます。年金保険に向いている方のタイプとして代表的な例をいくつかご紹介します。
●老後に向けて計画的に準備したい人
毎月一定額を積み立てていき、将来の年金にするという年金保険のスタイルは、計画的に老後の資産を貯めたい人にはぴったり。公的年金だけでは足りない分を補い、老後の安定した収入源を作ることができます。
●医療保険等に加入できない人
老後の備えを考えた時、医療費を準備しておきたいという人は多いと思います。しかし医療保険に入るにあたり、高額な死亡保障があるものには多くの場合、医師による診査や健康診断書を、そうでないものでも健康状態を記入した告知書を保険会社に提出する必要があり、持病などがある場合には加入できないこともあります。
この点、年金保険の中には審査不要で加入できるものもあるので、医療保険に入れなくても加入できることが特徴です。受け取る年金を医療費に充てることもできますし、契約者が亡くなった場合に遺族が年金を受け取れるようなプランにしておけば、死亡保障付医療保険の代わりに使うこともできます。
●ローリスクで投資したい人
年金保険は金融商品の1つですが、ローリスク・ローリターンな貯蓄型保険です。予め掛け金とリターンの比率が決まっている確定年金や終身年金の中でも、お金が目減りするリスクがない「定額型」を選べば、利回りは小さい代わりにローリスクで投資をすることができます。ほとんどの場合、銀行に預けておくよりは高い利回りが設定されています。
●計画的にお金を貯めたい人
年金保険は支払いが終わる前に途中で解約してしまうと、支払った金額より受け取れる金額が少なくなる可能性があります。これが解約への抑止力となり、その分受取金としてお金を貯めやすくなっているため、「貯蓄をしようと思っても、ついつい引き出して使ってしまう……」という人にはおすすめです。掛け金は月々クレジットカードや銀行からの引き落としで支払う方式なので、払い忘れることもなく、意識せずにしっかりお金を貯めることができるでしょう。
4. 年金保険契約前にはここに注意
4-1 まずチェックしたい保険会社の健全性
ローリスク・ローリターンな年金保険ですが、金融商品である以上、もちろんまったくリスクがないというわけではありません。その中でもまずチェックしたいのは、年金保険を販売している保険会社の健全性です。というのも、万一保険会社が倒産した場合、受け取れるはずだった年金が減ってしまう可能性があるからです。
年金保険の販売元である生命保険会社は、日本国内で営業する場合には必ず「生命保険契約者保護機構」という団体への加入を義務付けられています。保険会社が倒産した場合はこの団体によって一定額が保証される仕組みになっているので、掛金が全額無駄になってしまうということはありません。ただし、会社の状態によっては本来受け取れるはずだった金額より少なくなる可能性は多分にあります。
会社の経営状態を正確に把握するのは難しいですが、保険商品を購入するまえに販売会社に関する情報を集めるとよいでしょう。また、倒産した場合の支払い条件については会社・商品ごとにさまざまなので、購入前に必ず契約書の該当部分を確認するようにしましょう。
4-2 円建てと外貨建ての違い
次に知っておきたいのは円建てと外貨建てによる違いです。
年金保険は受取期間の規定のあり・なしどちらのタイプでも、また円建てのほか、ドルやユーロなど外貨建ての商品を選ぶこともできます。
現在、日本はマイナス金利の時代。およそほとんどの外貨は円より高金利なので、外貨建て商品は円建てに比べ、掛け金に対して受け取ることができる年金額の利率が高い場合が多いのですが、実際に年金を受け取る際にはその時点の為替レートで円に変換することになります。為替相場によっては、掛け金より受取額の方が少ない元本割れを起こす場合もあるので注意が必要です。
4-3 定額型と変額型の違い
もう1つ、忘れてはいけない重要な事項に定額型と変額型の違いがあります。
年金保険は受け取る年金の額が一定の「定額型」と、掛金(原資)を運用しその運用実績によって受け取る年金の額が変わる「変額型」の2種類に分かれています。
このうち「定額型」は、将来受け取れる年金の額は掛け金×何パーセントと予め決まっており、元本割れの可能性はありません。資金の運用は保険会社が一括して行い、保険の加入者本人は掛け金の支払い・年金の受給以外、特に何もする必要はありません。ローリスク・ローリターンの商品です。
これに対し「変額型」は、保険の加入者本人が原資を運用し、その運用成績に応じて将来受け取る年金額が決まる仕組みです。運用成績によっては受取金額が大幅に増える可能性もある一方、元本割れの危険性もあり、そのリスクは契約者本人の自己責任となっているのが特徴です。
希望するリターンや防ぎたいリスクなどは人それぞれなので、どちらが良いとは一概には言えません。それぞれの特徴を押さえた上で、自分の状況にあったプランを選ぶことが何よりも重要になるでしょう。
まとめ:押さえておきたい年金保険のポイント
ここでは老後の備えと年金保険について
・老後の生活資金として平均で月約26万円が必要なこと
・老後の生活資金は公的年金だけでは足りないこと
・公的年金を補うものとして、個人で自由に加入できる年金保険が利用できること
・年金保険には「年金の受取期間が確定しているもの」と「一生年金を受け取れるもの」2つのタイプがあること
・年金保険は老後に受け取ることのできる年金を増やしたい人以外にも、貯蓄が苦手な人やローリスクな投資を望む人などにも向いている商品であること
・年金保険のリスクとして、保険会社の倒産、外貨建ての場合は為替相場、変動型の場合は運用成績によるリスクがあること
などをお話してきました。
老後の生活を設計する上で年金は非常に重要なポイントです。公的年金のほかに年金保険という方法もあること、そのメリット・デメリットなどを知ることで不安の解消に役立てていただければと思います。
また保険見直し本舗では、無料保険相談を承っております。保険の専門家であるコンサルティングアドバイザーの意見を参考に、不安を解消されてみてはいかがでしょうか。